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幕があく 第23話

 【16//2016】

「あそこは良い祭儀場ですよ。母が亡くなった時に利用したのですが、務めてらっしゃる方々はみな、優しい人ばかりです。助かりました」


タクシーの運転手は、そう話してくれた。どんよりとした雲を抜けるように、山道を進んでいく。晴れた日には海が見えるらしいが、天は味方にも付かず、まるで忘れてしまったように静かなまでの空を演じきっているようだった。一方的に話す運転手の声は、幼げな少年の夏のひと時のように、高揚とした口調だった。当然忘れる事のない一日を、精いっぱいの感謝の思いで抱きかかえている。月日はそれで許してくれたのだろうか。准は、詳しくを質問することはしなかった。





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会場に着くと、式の数十分も前にも関わらず、大勢の人たちが集っていた。静かに立っている人、4人ほどで談笑する大人、何食わぬ顔で、おもちゃをいじる子供、写真を撮っている人もいた。皆、会いに来たのだろうか、凪に、最期の挨拶をかわそうと集まった人たちなのだろうか。准は人波をくぐり会場に入った。



『西条家』




太く滴れた墨汁の香りが漂う、そんな感覚に襲われる文字。その向こうには、だんだんと敷き詰められた、大きな花が飾られてある。凪は花が好きだっただろうか、いや、あれは関係が無く置かれたものだろう。葬式は、妹の葬儀以来だ。あの時は学生服で出席していたと思う。学生服だったから、あまり、非日常という雰囲気にさせない自分の心底を殴りつけ、無理矢理に参加したのを覚えている。違う、自分は、学生としてではなく、兄として参加がしたかったのだ。家族として、妹に会いたかった。そして今、立派な喪服を身にまとい参加する自分は、果たしてあの頃とどう変わってしまっただろう。心は、同じように痛い。


「・・・・・・・」


隣に立っていたのは、リコだった。じっと、飾られている花を眺めているリコからは、涙は流れていなかった。






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「ここで会ってしまうなんて、想像もしなかったな」

「来るまで信じたくはなかった。もしかしたら別の人で、勘違いで家に帰る自分を何度も想像した。やっぱり、死んじゃったんだね。凪は、死んじゃったんだね」

「あぁ・・・」

「・・・・・・・」

「おーいリコ・・・・!それと、あんたは、准さんか。准さんか!」

「隣は詩織か」

「うん」

「・・・・・ありがとう。みんな、ありがとうな。本当に」



5年ぶりの再会の場、そこには小虎と、凪の姿は無かった。
集まるべきではなかったのかもしれない。それぞれ、かつては死を追い求めていた。本当は、この世に残ることのなかった4人。素直に喜べなかった。確かな成長の元、人生を歩み始めているというのに、喜べなかった。ただ顔を見合わせ、少しはにかむ事しか、4人には出来なかった。凪と会う事のないまま、それは、もしかしたら見殺しだったのだろうか。誰か一人が駆けつけていれば、凪は自殺をしなかったかもしれない。たった二文字の事実が、4人の心を殴り続けている。いつまでも、繰り返し、殴り続けている。


「会場に入ろう。時間がくる」


准はそう言いかけ、足踏みそろえ、着席をした。席はそれぞれがバラバラであった。凪から遠のいてしまった自分と重ね合うように、その姿が覆われてしまうように、自らを隠してしまうように。静かだった、それが、大人になってしまった4人の出せる、唯一の答えだった。順調に進む時間、刻々と、迫っていく意識。この心臓の鼓動は何を知らせてくれているのか、英輔はその足を留め、必死になり前を向いた。早くなる。動かしてほしくない。知りたくない、わかりたくない。だが、止まらない。


「リコ、焼香行きな」


久しぶりに見るリコの姿が、詩織の目にはとても痛々しく見えた。いつも抱きしめていたクマのぬいぐるみを外し、その外見も見違えた大人のようだったが、隠しきれていない、幼い心が見えていた。リコは、まだ動き始めていなかった。懸命に歯車をかみ合わせ、ギシギシと音を立て続けている。凪ならきっと、すぐに見抜いてしまうだろう。なぜか、そんな気がした。




凪の父親は、とても50代とは思えぬほど、若々しかった。手慣れた挨拶に聞き惚れてしまいそうになる意識を止め、准はじっと、その姿を眺めていた。娘が死んだ、しかも自殺だ。自然と、自分の父親とも重ねていた。泣いて、ずっと泣いて、泣き崩れた父親を、准は当時かばわなかった。じっと、立ち上がるのを待っていた。父親の泣き顔を、見られたくなかったからだった。妹もきっと同じことを思っただろう。凪の父親は、最後まで泣くことは無かった。



「それでは、告別式を開始いたしますので、会場内にお集まりください」


最期の時が来た。凪の元へ、飾られていた花を置いていく作業。親族を中心に、参列者はその最後を任されていた。震えていたリコの頭を、詩織は優しくなでていた。花を受け取り、凪の元へと歩み寄る。4人の目の前に、静かに眠りについている凪の姿は、いつまでも永遠に動かない時の流れに素直に従った、正直なままの凪そのものだった。


「凪・・・・・」


詩織が声をかけた。そして、何度も名前を呼んだ。この子は凪だ、凪そのものだ。信じたくない嘘を言い当てるのは得意でないけれど、間違いなく目の前に、5年前と変わらないままの少女がいる。綺麗な花に囲まれた、物語のような見栄えがあまりにも美しく、英輔はそっと凪の頬に触れた。何度も何度も触れた。英輔が横にずれ、隣の少女にその位置を譲る。准は、涙を浮かべるその少女が三浦であると、気づくことはなかった。
棺は、閉じられた。固く、とても固く、もう開くことが無いように。泣いている。涙を流す人がいる。いてくれている。この場所は今、幸福に満ち溢れている。誰も自殺した凪を責めたりしない。死を悲しみ、受け入れようと必死になる人達が、集まっている。生きようと思う事の素晴らしさを、探そうとする。そうだ素直になればいいんだ。そう言い聞かせるんだ。どんな感情も受け入れてしまいたい。


「・・・・・・・・・」


准は泣いた。かつての父親のように、泣き崩れた。
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Category: 小説 「幕があく」

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